STP分析は「誰に(Segmentation/Targeting)」「何を価値として(Positioning)」届けるかを先に決め、全体戦略と日々の施策に矛盾が生じないようにするためのフレームワークです。市場全体を一括で狙うより、狙いを絞って価値を言い切るほうが、広告・Web・営業資料までメッセージをそろえやすくなります。結果として、無駄な配信や制作が減り、同じ予算でも成果の安定が期待できます。
本記事では、初心者の方に向けて、STP分析の意味から使い方、事例を詳しく解説します。
STP分析とは?
STP分析とは、セグメンテーション(Segmentation)、ターゲティング(Targeting)、ポジショニング(Positioning)の頭文字を取ったマーケティング戦略のフレームワークです。これにより、企業は市場を細分化し、特定のターゲット層を選定し、そのターゲット層に対して最適なメッセージを伝えることができます。
市場は多様なニーズを持つ消費者で構成されています。そのため、全ての消費者に同じマーケティング戦略を適用することは効果的ではありません。STP分析を行うことで、企業は特定のセグメントに焦点を当て、そのニーズに最適化された戦略を展開することが可能となります。
例えば、自動車業界では、セグメントとして高級車、ファミリーカー、エコカーなどが存在します。高級車をターゲットとする企業は、富裕層向けのマーケティング戦略を展開し、高級感やブランドイメージを強調することで市場シェアを獲得します。
このように、STP分析を活用することで、ターゲット市場に対して最適なマーケティング戦略を展開し、競争優位性を確立することができます。
確認すべき観点 | アウトプット | |
---|---|---|
Segmentation | 市場をどう分けるか | 「●●という切り口でA/B/Cに分ける」 |
Targeting | どこに集中するか | 「一次はA、二次はB、Cは保留」 |
Positioning | 何を価値として伝えるか | 「Aには□□を価値として届ける(一言で)」 |
セグメンテーション(Segmentation)
セグメンテーションは、市場を異なる特性やニーズを持つグループに細分化するプロセスです。
市場全体に対して同一のアプローチを行うのは非効率的であり、各セグメントの特性に応じた戦略を展開することで、より効果的なマーケティングが可能となります。
例えば、飲料業界では、消費者を年齢、性別、ライフスタイル、購入動機などでセグメント化します。若年層向けにはトレンディな広告を展開し、健康志向の高い消費者には低カロリーやオーガニック製品を訴求するなど、各セグメントに合わせた戦略を立てることが重要です。
セグメンテーションを適切に行うことで、各セグメントに最適なマーケティング戦略を展開し、効果的にリソースを配分することが可能です。
切り分けた区分ごとに、規模・成長・到達しやすさ・採算性の目安を同じ書式で並べると比較が早まります。
区分 | 根拠データ | 規模/成長 | 到達しやすさ | 採算性(LTV/CAC 目安) |
---|---|---|---|---|
A | 購買履歴、行動ログ | 大/横ばい | 既存チャネルで接点あり | 良 |
B | アンケート、外部統計 | 中/成長 | 新規チャネルが必要 | ふつう |
C | インタビュー | 小/不明 | 接点を持ちにくい | 不明 |
区分を増やし過ぎると意思決定が遅くなります。説明できる数に絞ることが要点です。
ターゲティング(Targeting)
ターゲティングは、セグメントの中から最も魅力的な市場を選定し、その市場に対して集中するプロセスです。
全てのセグメントに対して同じリソースを割り当てるのは非効率的です。ターゲティングを行うことで、最も収益性の高いセグメントに集中し、リソースを最大限に活用できます。
化粧品業界では、多数のセグメントが存在しますが、特定の高級化粧品ブランドは富裕層をターゲットとします。このセグメントに対して、プレミアムな広告キャンペーンを展開し、高価格帯の商品を提供することで、ブランド価値を高めることができます。ターゲティングを適切に行うことで、最も効果的な市場にリソースを集中させ、高い投資対効果を実現することができます。
数値が揃っていなくても、相対評価の表に落として一次・二次を決め、残りは保留にします。
評価軸 | A | B | C |
---|---|---|---|
採算性(LTV/CAC) | ◎ | ○ | △ |
到達性(既存チャネル) | ◎ | △ | × |
競合強度(置き換えられやすさ) | ○ | △ | × |
戦略適合(自社の強みと一致) | ◎ | ○ | △ |
総合 | 一次 | 二次 | 保留 |
狙いを絞るほど、クリエイティブや営業資料の方向が定まり、検証も短期で回せます。
ポジショニング(Positioning)
ポジショニングは、ターゲット市場に対して自社製品やサービスの独自の価値を明確に伝えるプロセスです。
競争の激しい市場では、消費者に対して自社製品やサービスの差別化を図ることが重要です。ポジショニングを行うことで、消費者の心に強い印象を与え、ブランドロイヤルティを高めることができます。
例えば、Appleは「革新」と「高品質」を強調することで、他の電子機器メーカーと差別化しています。これにより、Apple製品は高価格でも消費者に支持されるブランドとなっています。
ポジショニングを適切に行うことで、ターゲット市場に対して明確なメッセージを伝え、競争優位性を確立することができます。
書式 | 例 |
---|---|
誰に | 専任情シスのいない中小企業 |
どんな課題を | 導入と運用の負担が大きい |
どう解決するか(一言) | 「導入の手間を最小化し、運用はチャットで即時支援」 |
証拠 | 事例・数値(導入日数−40%、応答時間−50% など) |
ポジションマップを作る場合は、縦横の軸を顧客の比較軸に置き、主観的なラベルは避けます。
STP分析の目的
目的は大きく二つです。一つ目は、限られたリソースを効果が見込める相手に集中させること。二つ目は、全体戦略と行う施策に矛盾が生じないようにすること。
この二点が確かになれば、メッセージの一貫性が生まれ、検証も短いサイクルで回せます。
STP分析のやり方と手順
最初に「何を達成するか」を一行で決め、S→T→Pの順で固めます。下表の型に沿って埋めてみてください。
ステップ | やること(具体) | 成果物(1行または書式) |
---|---|---|
1. 目的・指標の確定 | 今期の到達点と評価指標を一文で定義。対象市場も明示 | 例:SMB向け有料転換率を上げる/指標:転換率・獲得単価 |
2. セグメンテーション | 切り口を決め、データ(数・声)で区分。各区分を同一書式で比較 | 例:A/B/Cに分割(規模・到達性・採算性・競合強度で評価) |
3. ターゲティング | 評価表にもとづき一次・二次を選定。残りは保留 | 例:一次=A、二次=B、C=保留 |
4. ポジショニング | 買い手の比較軸で差別化を一言化。裏付け(事例・数値)を添付 | 書式:誰に/どんな課題を/どう解決するか(一言)+証拠 |
5. 4Pへの展開・実行管理 | 価格・流通・販促・製品へ反映。担当・期限・KPIで運用 | 例:価格表示統一/導入支援パッケージ/担当・期限・KPIを進行表に登録 |
1行で目的・対象・指標を決めます(例:今期の有料転換率を上げる/SMB向けコアプラン/転換率・獲得単価)。次に、切り口を選び、必要なデータを短期間で集めます。区分の評価表を同じ書式で作成し、一次・二次のターゲットを確定。続いて、ターゲットごとに一言メッセージ(上の書式)と証拠を用意し、LP見出しや初回メールでA/Bテストを実施します。最後に、4P(製品・価格・流通・販促)へ展開。価格表示の統一、導入支援のパッケージ化、チャネル配分、広告の文言と配分量までを一続きで決め、担当・期限・KPIを付けて進行表に登録します。短いサイクルで実績を見て、次の四半期に反映させてください。
STP分析の具体例
以下は、STP分析の具体例です。
B2C(コスメの新色)
若年層の「トレンド重視」と、30代以降の「肌へのやさしさ」を別区分として扱いました。前者には動画とUGCを中心に、後者には成分の安全性と持続を強調。価格は既存ラインに合わせ、メッセージは区分ごとに一本化。結果としてCVRが改善し、在庫の偏りも解消しています。
B2B(SaaSの有料転換)
従業員数50〜300名で専任情シス不在の企業を一次ターゲットに設定しました。ポジションは「導入の手間が少ない/運用はチャットで即支援」。初回体験を二つのステップに短縮し、年額プランの表記を明確化。トライアルから有料への転換率が向上し、獲得単価も目標内で推移しました。
よくある失敗例
もっとも多いのは戦略と施策の不一致です。高付加価値をうたいながら値引き広告を打つ、といった矛盾がないかを実行前に点検してください。次に、ターゲットの広げ過ぎが見られます。人物像がぼやけると訴求も弱くなります。一次・二次を明確にし、その他は保留に置く判断が必要です。最後に、差別化軸の誤りがあります。自社都合ではなく、買い手が実際に比べる基準で言語化し、事例と数値で裏づけてください。
使えるSTPキャンバス
セクション | 記入例 |
---|---|
目的・対象・指標 | SMB向けコアプランの有料転換率を上げる/対象:国内SMB/指標:転換率・獲得単価 |
セグメントの定義 | 従業員規模、導入体制、決裁構造、利用シーン |
評価表(要約) | A:一次/B:二次/C:保留(採算性・到達性・競合強度・適合で評価) |
ポジショニング | 誰に/どんな課題を/どう解決するか(一言)+証拠(事例・数値) |
4Pへの展開 | 価格表示/導入支援パッケージ/チャネル配分/広告の文言と配分量 |
実行管理 | KPI・担当・期限/検証結果メモ |
この一枚のシートを共有すれば、部門間の合意形成が早まります。全体戦略と施策の矛盾も見つけやすくなります。
まとめ
STP分析は、マーケティング戦略を成功に導くための強力なフレームワークです。
セグメンテーション、ターゲティング、ポジショニングを効果的に活用することで、ターゲット市場に最適な戦略を展開し、検索エンジンでの順位を上げることが可能です。この記事で紹介した手順を実践し、効果的なマーケティング戦略を構築しましょう。